就業規則を変更するための
手続きと6つの注意点
【専門家の解説付】

「就業規則を変更するための手続きを知りたい」
「従業員とトラブルが起きないように変更したい」
とお考えではありませんか?

就業規則を変更したことにより、内容に不満を持った従業員とトラブルが起きたり、辞められてしまったりしては大変ですよね。

このページでは、50社以上の役員を歴任、40社以上の経営をしてきた代表が務めるJNEXTグループが「就業規則を変更する手続きや注意点とは?」、「届出の際にどんな書類を用意すればいいの?」といった就業規則の変更に関することを経営者の目線で解説しています。

「手続き方法と注意点を把握し、スムーズに就業規則を変更したい!」とお考えでしたら、ぜひチェックしてみてくださいね。

1.周知・同意は必須!就業規則を変更するための4つの手続き

就業規則を変更するためには以下の4つの手続きが必要です。

  • 就業規則(変更版)を作成
  • 意見書を作成(意見聴取)
  • 労働基準監督署(労基署)へ届出
  • 変更した就業規則を周知

それぞれ詳しくご案内しますね。

【手続き①】
就業規則(変更版)を作成

就業規則を変更するための1つ目の手続きでは、就業規則(変更版)を作成します。

すでにご存じの方もいらっしゃるでしょうが、まずは就業規則の変更に関して根本的なことをお伝えしておきます。

それは、就業規則を変更する目的は主に3つであるということ。

  • 会社のルールを変えたいので就業規則を変更したい
  • 現在の会社のルールにあわせて就業規則を変更したい(以前、変更し忘れてた…)
  • 法改正にあわせて、会社のルールを変更しなければならない

この記事をご覧いただいているということは何かしら変更したい内容があるのかと思います。
この際ですからまとめて変更してしまいましょう。

さて、変更版の就業規則をつくるためには、次の手順で行います。

  1. 変更内容の洗い出し
  2. 変更する内容の検討

それぞれの手順について詳しくご案内していきますね。

手順①
変更内容を洗い出し

まずは、変更したい内容を洗い出してください。

「退職金規定を設けたい」
「有給休暇を半日ずつ取得できるようにしたい」
「遅刻早退をしたときの給与計算のルールを明確にしたい」
「法改正(育児休業の延長取得)に対応したい」

もちろん、この文言のままでは就業規則に反映させられませんので、次の手順で「変更する内容の検討」を行います。

手順②
変更する内容の検討

先程、洗い出した変更内容を就業規則に反映させるためには、以下のような対応が必要です。

「退職金規定を設けたい」⇒【退職金規程の作成】
「有給休暇を半日ずつ取得できるようにしたい」⇒【有給休暇の規程の追加】
「遅刻早退をしたときの給与計算のルールを明確にしたい」⇒【賃金規程の修正】
「法改正(育児休業の延長取得)に対応したい」⇒【育児休業規定の修正】

ここでは、【有給休暇の規程の追加】と【育児休業規定の修正】を例にあげて、具体的にご案内します。

<【有給休暇の規程の追加】の場合>

念の為、まずは現在の規定に「半日取得の記載がないこと」を確認してください。

「当事務所にご相談いただく会社様は、有給休暇について付与日数だけ定めていることが多いです。半日休暇の需要もありますので、追加することを検討してみてくださいね。」

記載がないことを確認できたら、規程を追加します。

(具体的な記載例)
(半日単位年休)
第○条 従業員は、会社に事前に申請した場合、半日単位で年次有給休暇を取得することができる。
前項に基づき、半日単位で取得した場合の始業時刻及び終業時刻は、次の各号に掲げるとおりとする。
(1) 前半休…午後2時から午後6時まで
(2) 後半休…午前9時から午後1時まで

ちなみに前半・後半をどのように決めるかは会社の自由です。

極端に言えば、前半休:午後1時から午後5時まで(勤務)、後半休:午前9時から午前12時まで(勤務)のように就業時間が5時間、3時間というように半々でなくても構いません。

ただし、従業員とのトラブルを避けるためにも記載例の様に半々(午前・午後)でわけておくのが無難です。

というのも、前半休(午前休)を取得する従業員が多い場合は、「(後半休の方は勤務時間が短い)不平等だ」と不満を募らせ、トラブルが起きやすいためです。

上記とは少しずれてしまうのですが、当事務所で実際に起きたトラブルをご案内します。

これは、9時~17時が就業時間(12時~13時はお昼休み)の会社でのトラブルです。

この会社は、就業規則で半休の制度は定めていたが、具体的に何時から何時までとは定めていませんでした。そのため従業員はそれぞれの考える時間で半休を取得していたのです。

ところがある日、「早退していないのに“早退”の記載がある」と従業員からクレームが入りました。

経理担当者が確認すると、この従業員が半休を取得したと思っていた日が“早退”になっていました。

この会社は後半休の場合、9時~13時は勤務しなければなりません。しかし、この従業員はお昼休憩を半休の節目と捉え、12時に帰宅してしまったのです。

この様に、人によっては認識が異なりトラブルに発展してしまう可能性がありますので、前半休・後半休の時間は明確に定めておきましょう。

<【育児休業規定の修正】の場合>

少し前ですが、平成29年に、育児休業に関して、「最長1歳6か月までだったものが、最長2歳まで延長取得できる」ようになりました。

このように法改正に伴う変更の場合は、法令通りに対応すればOKです。

(具体的な記載例)
第〇条 育児休業の期間等
子が1歳から1歳6ヶ月に達するまでおよび1歳6ヶ月から2歳に達するまでの期間内で、それぞれ1回、育児休業終了予定日の繰り下げ変更を行うことができる。

ちなみに、育児休業の場合、社内で育児休業の申請手続きについて規定しているでしょうから、同時に変更しておいてくださいね。

(変更例)
育児休業をすることを希望する従業員は、原則として育児休業を開始しようとする日(以下「育児休業開始予定日」という。)の1か月前(1歳及び1歳6か月を超える休業の場合は、2週間前)までに育児休業申出書を人事部労務課に提出することにより申し出るものとする。

【手続き②】
意見書を作成(意見聴取)

就業規則を変更するための2つ目の手続きでは、意見書を作成(意見聴取)します。

つまり、労働者の代表者からの意見を聴き(意見聴取)、意見書を作成する手続きのことです。

労働者の代表者は、誰でもイイというわけにはいかず、管理監督者でない人がなる必要があります。

管理監督者とは、部長や工場長といった、企業内で相応の地位と権限を与えられた上で業務内容の管理や業務を遂行するために監督を行う立場の人のこと。

労働者の代表を選出するためには、従業員に対して「変更した就業規則に対して、意見してくれる代表者を選出したい」と伝えたうえで、投票・挙手等により選出する必要があります。

ただし、ココで注意してほしいのが、代表者は労働者の過半数から支持されている必要があるということです。

例えば、投票であれば、2回行う(1回目の投票で上位2人に絞り、2回目の投票では、その2人のどちらかに対して投票してもらう)ことで過半数の支持を得ていることになりますね。

代表者が決まったら、代表者から意見を聴き、意見書を作成します。

この意見書の作成方法は「必要書類③:従業員代表者の意見書」でご案内しますね。

【手続き③】
労働基準監督署(労基署)へ届出

就業規則を変更するための3つ目の手続きでは、労働基準監督署(労基署)へ届出をします。

届け出る書類は以下の3つです。

  1. 就業規則変更届
  2. 就業規則or新旧対照表
  3. 従業員代表者の意見書

提出の時には上記の書類を2部ずつ用意します。

ちなみに2部ずつ用意する理由は、労働基準監督署で保管する分と事業所で保管する分に受理印をもらうためです。

ではそれぞれの必要書類についてご案内しますね。

必要書類①
就業規則変更届

就業規則の変更時に必要になる1つ目の書類は、就業規則変更届です。

就業規則変更届のテンプレートは以下の労働局のHPからダウンロードすることができます。

就業規則変更届 | 東京労働局

書き方は以下の見本を参考にしてみてください。

所轄の労働基準監督署は、厚生労働省のホームページで確認できます。

ちなみに、豊島区の場合は池袋労働基準監督署です。

もし厚生省のホームページで見つけにくい場合には「○○(地域名) 労基署」といったキーワードで検索してみるとすぐに見つかります。

主な変更事項について、「変更事項が多すぎて書ききれない」という場合には、ココには何も書かず変更した就業規則を添付してくださいね。

必要書類②
就業規則または新旧対照表

就業規則の変更時に必要になる2つ目の書類は就業規則、もしくは新旧対照表です。

先程ご案内した、変更届の主な変更事項内で書ききれた場合は「新旧対照表」、書ききれなかった場合は「就業規則」を添付してください。

「新旧対照表」とは、就業規則の変更箇所を対比した書類のことです。

新旧対照表の書式は特に決められていませんので、当事務所で使っているテンプレートを以下よりダウンロードしてください。

就業規則新旧対応表(テンプレート).xlsx
Microsoft Excel 16.6 KB ダウンロード

書き方は以下の見本を参考にしてみてくださいね。

賃金規程改訂対応表

必要書類③
従業員代表者の意見書

就業規則の変更時に必要になる3つ目の書類は、従業員代表者の意見書です。

「【手続き②】
意見書を作成(意見聴取)」でもご案内しましたが、従業員代表者の意見を記入した意見書が必要です。

意見書のテンプレートは以下よりダウンロードできます。

就業規則意見書 | 東京労働局

※まだ元号が“平成”のままですので、“令和”に修正して使いましょう。

この意見書は従業員の代表者に書いてもらいます。(署名・押印も)

どのように書いたらいいのかわからない場合は、当事務所で実際に作成した見本(以下)を参考にしてみてください。

意見がない場合は、「特に意見はありません」といった文言で書いてもらえばOKです。

もし、見本のように意見がある場合ですが、基本的にはそのままでも問題ありません

というのも、意見書はあくまで「意見を聴くこと」が義務なので、「意見を取りいれる」必要はないからです。

しかし、反対意見がある状態は労務管理上問題が発生しやすいです。

後々問題を発生させないためにも、会社から変更の理由や必要性を丁寧に説明する説明会を開いたり、資料にまとめて配布したりして、事前に対策しておきましょう。

【手続き④】
変更した就業規則を周知

就業規則を変更するための4つ目の手続きでは、変更した就業規則を周知します。

就業規則を周知するとは、従業員に対して「就業規則が変わった」と知らせるということです。

全従業員へ周知することで、変更後の就業規則の効力が発生するので、とても重要な手続きです。

ちなみに当事務所では以下のように周知をしてもらっています。

  1. 各事業所の見やすい場所へ掲示する
  2. 就業規則のデータを社内ネットワーク上に保管して、全従業員に通知する

2.不利益がなくても勝手に変更はNG!就業規則を変更する際の6つの注意点

就業規則は従業員にとって不利益な内容が含まれていなくても勝手に変更することはできません。

ココでは就業規則を変更する際に気を付けなくてはいけない6つの注意点をご案内しますね。

  1. 不利益変更は合理的な内容でないと認められない
  2. 不利益変更の場合、労働者代表の同意書だけで対応してはいけない
  3. 管理者や監督者が労働者代表になることはできない
  4. 変更した就業規則の効力が発生するのは周知後である
  5. どんな些細なことであっても勝手に変更することはNGである
  6. 事業所が複数ある場合、事業所ごとに届出が必要である

【注意点①】
不利益変更は合理的な内容でないと認められない

そもそも不利益変更は労基法9条にて禁止されています。

なので、不利益変更を行うには、従業員から見ても、企業から見ても「必要」かつ「合理的」な内容である必要があります。

例えば、企業が従業員の給料を減額することは一般的には不利益変更に該当します。

しかし、企業が倒産しかけていて、色々と対策したにもかかわらず、解決されない状態であれば、不利益変更であっても認めてもらいやすいです。

ご自身で判断するのは難しいかもしれませんが、上記のように従業員から見ても、企業から見ても「必要」かつ「合理的」な内容であることがポイントです。

【注意点②】
不利益変更の場合、労働者代表の意見書だけで対応してはいけない

不利益変更の場合、労働者代表の意見書だけで対応してはいけません。

なぜなら、労働者代表が合意したからといって、反対意見を持つ労働者がいないとは限らないからです。

企業はすべての従業員に説明を行い、全員から「合意」をしてもらう必要があります。

【注意点③】
管理者や監督者が労働者代表になることはできない

先程もご案内しましたが、部長や工場長といった管理者や監督者が労働者代表になることはできません。

管理者・監督者を除く従業員の中から投票や挙手等で決める必要があります。

代表者の詳しい選出方法については、もう一度見直してみてくださいね。

【注意点④】
変更した就業規則の効力が発生するのは周知後である

変更した就業規則の効力が発生するのは周知後です。

よく勘違いされる方がいますが、労基署に届出たからといって効力が発生するわけではありません。

「フジ興産事件(裁判:平成15年10月10日)」の判例では、就業規則の周知が十分でなかったため、従業員に提訴されました。

【フジ興産事件の概要】
企業は、反抗的態度・上司への暴言など職場の秩序を乱す労働者に対し、就業規則の規定通りに懲戒解雇処分とした。ところが職場には就業規則が備え付けられていなかった(周知されていなかった)。ゆえに労働者から「解雇処分について無効である」と提訴され、敗訴した。

周知がしっかりと行われていないと、上記の判例のように労務問題に発展してしまいます。

先程もご案内しましたが、周知を行う際には、各事業所の見やすい場所へ掲示するか、就業規則のデータを社内ネットワーク上に保管して全従業員に通知してくださいね。

【注意点⑤】
どんな些細なことであっても勝手に変更することはNGである

「あまり影響がないだろうから、就業規則を(勝手に)変更してしまおう」

とお考えの方がいらっしゃいましたら、ちょっと待ってください。

確かにちょっとした変更のために、届出をしたり、周知をしたりするのは大変ですよね。

しかし、どんな些細なことであっても勝手に変更してはいけません。

先程もご案内しましたが、就業規則は周知をしてはじめて法的効力が発生します。

もし勝手に変更した部分に関するトラブルが起きてしまったら、法的効力が認められていないので、会社の立場が弱くなってしまいます。

いざというときに困らないように、きちんと手続きをしておいてくださいね。

【注意点⑥】
事業所が複数ある場合、事業所ごとに届出が必要である

事業所が複数ある場合は、事業所ごとに届出が必要です。

例えば、本店と支店がある場合はそれぞれ就業規則を作成し、労基署に届け出る必要があります。

ちなみに、本店と支店の就業規則の内容が全く同じ場合は、本店の所轄の労基署に一括で届け出ることが可能です。

ただし、届出は一括でOKですが、意見書の作成と周知は事業所毎(本店、支店)で行う必要があります。

また、本店の所轄の労基署に届出する際には、各事業所の名称、所在地、所轄労働基準監督署名を記入した就業規則本社一括届出対象事業場一覧表を添付してください。

就業規則本社一括届出対象事業場一覧表 | 東京労働局

3.就業規則を変更する際によくある質問 

就業規則を変更する際によくある質問をまとめました。

変更時の届出には提出期限があるのか?
いいえ。明確な提出期限はありません。
就業規則を変更した場合、「遅滞なく」所轄の労働基準監督署長に届出なければいけません。
具体的に「何日以内」という形では定められていませんが、変更してから常識的な範囲の期間内に届出くださいね。
従業員が10人未満のときに変更した場合、届出は必要か?
いいえ。従業員が10人未満のときには届出は必要ありません。
ただし、一時的に従業員が10人未満(普段は10人以上の従業員が必要な労働環境)の場合は、届出する必要があります
ちなみに、これまで何度もお伝えしてきましたが、就業時間は「周知」していなければ法的効力が発生しません。
よって従業員が10人未満であっても、周知することは必須です。

4.就業規則の変更に関するまとめ

就業規則を変更するためには、以下の4つの手続きが必要でした。

  • 就業規則(変更版)を作成
  • 意見書を作成(意見聴取)
  • 労働基準監督署(労基署)へ届出
  • 変更した就業規則を周知

そして、就業規則を変更する際には、以下の6つの注意点がありました。

  • 不利益変更は合理的な内容でないNG
  • (不利益変更の場合)労働者代表の同意書だけでの対応はNG
  • 管理者や監督者は労働者代表になれない
  • 変更した就業規則の効力が発生するのは周知後
  • 些細なことでも勝手な変更はNG
  • (事業所が複数ある場合)事業所ごとに届出が必要

注意点に気を付け、きちんとした手順で対応して、従業員とトラブルにならないように変更してくださいね。